ライター(大学ジャーナリスト)石渡嶺司のブログ


by reiji0
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大学コンサルタント(爆)石渡嶺司の受験生を増やす法則・地方会場入試編

 大学がどうこう、ということをテーマに取材・執筆していると「うちの大学の受験生を増やすにはどうすればいいか?」とのご相談をいただきます。
 私は別に大学コンサルタントではないので(ホント)、取材結果に基づいてああだこうだ、とお話することはできます。喫茶店でお話しすることもありますし、講演や勉強会の場を設定してもらってお話することもあります。
 もれ伝え聞くところでは、本職の大学コンサルタントは学部名を適当に付けるだけで100万円単位、1000万円単位だそうでうらやましい。学部名って、せいぜい5~20字程度。戒名一つでバカ高い「お志」をふんだくる悪徳坊主も顔負けの商法。もういっそ、俺もそっちの方に行こうか、いやいや、どうせなら、裏でコンサルタントやって変な学部名を付けて、表で「今どきの大学、変な学部名、多いですよね」と評論するとか。これは二重においしい、げへへへへ。
 ごほん。大学が受験生を増やそうと日夜苦心していることはよく分かります。でまあ、そういう苦労を茶化してご飯を食べさせてもらっている私としては自分の本を買ってくれたらいいので、とご協力できるところはいくらでも。ほら、だまされた、と言ってもせいぜい1000円前後。1学年100冊買ったって10万円じゃないですか(100冊買わなきゃご協力しません、というわけではない、多分)。
 というわけで第一回(いや、次あるかは知らないけど)は地方会場入試。

 明治大が早稲田を抜いて受験者数日本一になった一因が地方会場入試の実施と言われています。大学キャンパス以外での実施が札幌、仙台、名古屋、大阪、広島、福岡。明治大の前には立命館大も地方会場入試を積極的に展開、それを全国の私大のみならず国立大でも導入するようになりました。
 当然、手間もかかるし、お金もかかるしで、受験生が集まらないと大学経営を圧迫します。大学教職員側は「うちはこれだけ苦労しているのになぜ集まらない、やはり大学は冬の時代なのか」とつらい思いをするわけです。で、そういうところに私がアホだバカだと書くものですから「外部の人間が苦労も知らないで偉そうに、キッー」となるわけで。
 私の書いたものの評価は甘受しますが、地方会場入試については(それ言ったらパンフでも教育内容でも何でも)、違う方向でいらん苦労をしているから受験生が集まらないだけじゃないかな、と。

 受験生集めでも何でも目的の整理と順番付けが大事です。それでは、地方会場入試についてはどうでしょうか。

「地方の受験生を増やす」

 ということですよね?これしかないはずだ。
「地方会場入試の最寄の歓楽街で一杯飲むため」でも「コンサルタントに言われたから実施する」ではないでしょう。
「地方会場入試によって(受験生が少なかったとしても)大学の認知度を上げる」というのは一見、もっともらしいけど、それなら違う方法を選ぶべきです。
「受験生を増やす」というなら受験生の側はどうでしょうか。
「移動してまでは受験したくない。でも、自宅近辺で入試会場があれば受けてみたい」
 そう思わせなければ受けてくれません。明治大や立命館大などが地方会場入試で受験生を増やしたのは、地方に潜在的なニーズがあったからでしょう。それと、札幌なり広島なり地方だと国公立志望者にとって、適当な併願校となりうる私大が少なく、全国区の難関大・準難関大を受けやすい、という事情もあります。
 では次の事例はどうでしょうか?

例1)東北・国立A大学(工学部のみで実施/偏差値55)
東京で実施
例2)北海道・私立B大学(経済系学部、国際系学部/偏差値45前後)
旭川、北見、帯広、函館、釧路、仙台、青森、東京で実施
※キャンパスは札幌

 例1の国立A大学の偏差値は55。首都圏の国公立工学部は上は東京大から東京海洋大などもある激戦区。関東圏まで広げればもっとあるわけで、東北の国立A大学を東京の受験生がわざわざ受けるかというと正直厳しいでしょう。
 例2の私立B大学も同様。偏差値60~65の明治大、立命館大などであれば仙台でも青森でもわざわざ併願しようか、となります。しかし、偏差値45前後の私大であれば仙台にも青森にもあります。そこを蹴ってまでわざわざ北海道の大学に行かなければならない理由は青森や仙台の受験生にはそうそうないでしょう。
 まして、東京で実施、というのは無謀すぎ。いや、気持ちは分かりますけどね。
 事情を説明すると1980年代後半~1990年代前半に、私大がやたら人気化して、日東駒専でも結構高倍率だったとき、北海道の私大に東京の受験生が一部流れたのです。予備校の教室1部屋どころか10部屋でも足りないくらいだった、と前に聞いたことがあります。
 でもねえ、それってバブルの幻影を追っているようなものなんですよ。今だと教室1部屋、それも何人集まるかな、という状態がずっと続いているのだし。
 話を戻します。
「受験生を増やすため」が地方会場入試の目的なら、そのために「受験してくれそうな受験生の多い地方会場で開催する」、そのためのリサーチが必要です。
 ここで、「人数が少なくても地方会場入試を開催していれば宣伝効果がある」という発想は却下。宣伝効果を狙うなら、新聞広告とか他の手段の方がもっと有効ですよ。
「OB会の要請があったので仕方なく」というのもダメ。その要請が、経営上合理的なものかどうか、冷静に判断して受けるかどうかを決めるべきです。要請だって「ここで実施すれば受験生がこれだけ集まる」というものか、「他でやっているならうちもやってほしい」程度なのかで変わってきますし。
 では地方会場入試が無意味か、と言えばそんなことはありません。難関・準難関大ならOKで他がダメ、というのでもなく。
大学側が、とか、OB会が、とかそういうのを抜きにして、受験生のニーズにあっているかどうかなんです。
その好例がこちら。

例3)東京農業大・偏差値51~57
札幌、仙台、新潟、名古屋、大阪、福岡、立川、池袋、津田沼、町田、横浜
※キャンパスは世田谷(豪徳寺)、厚木、オホーツク。厚木では入試を実施せず

 私が以前、某ビジネス雑誌で「偏差値50のお得大学」特集で東京農業大を出したところ、「うちは偏差値50でないのにいい迷惑」とそれはそれは東京農業大に嫌われました(いいじゃないか、偏差値50台で、という意味なんだし、ぶつぶつ)。そういうゴタゴタはともかく、私は東京農業大を高く評価しています。教育内容もですが、入試も同じ。地方会場入試の実施会場をよく見てください。
「札幌、仙台、新潟、名古屋、大阪、福岡」
この辺はまあ、よく地方会場入試で設定される都市。東京農業大は偏差値50台とは言え、全国区の大学ですから、ここは間違っていません。特に醸造科学学科は杜氏の子弟の進学先としても有名。なので、新潟も受験会場に設定しているのでしょう。
 東京農業大がすごいのはここ。
「立川、池袋、津田沼、町田、横浜」
 なぜか、厚木キャンパスでは入試を実施しないので、代替地として町田、というのはまだ分かります。しかし、世田谷キャンパスから30キロ圏内の立川、池袋でわざわざ実施。世田谷キャンパスから立川だと直線距離で15キロありません。
 私はこの東京農業大の地方会場の設定こそ、他大学が見習う好例、と考えています。つまり、受験生の利便を図りつつ、受験してくれる潜在的なニーズがあるかどうか、そこを冷静に見ているからです。
 普通の大学からすれば横浜、津田沼はもちろん、15キロも離れていない立川でわざわざ入試会場を設定する必要はない、それでおしまいです。
 しかし、立川の受験生にとってはどうでしょうか。入学すれば通学するのに時間がかかるのは仕方ないとしても、入試日には時間がかかって負担、それなら受験するのをやめようか、となるわけです。実際、立川から東京農業大の最寄駅・豪徳寺までは電車で45分。そこから徒歩だと約1時間。しかし、立川に入試会場があれば、移動の手間が省け、それなら受けてみよう、という受験生も増えます。

 この東京農業大の話をすると、大体の入試関係者は「うちも同じことをやっている」との答え。例2の私立B大学もそう。
 一見すると、函館、釧路、旭川、北見、帯広という道内主要都市での開催が同じと言えなくもありません。しかし、地図で調べれば分かりますけど、札幌から一番近い旭川でも140キロ。これのどこが「立川、池袋」と同じなんでしょうね?旭川から札幌に通学するのは不可能ではないけど、いや、それはちょっと違う。
「東京農業大/立川、池袋」と同じ発想で札幌の私大が実施するなら試験会場は小樽、苫小牧、岩見沢、千歳、北広島、江別などですよ。
 一応、札幌の私大、一通り調べましたが、遠隔地では入試をやっていても、近場ではどこもやっていませんでした。うーん、なぜ潜在的ニーズの多そうな近場で地方会場入試をやらずに、どう考えてもニーズのなさそうな遠隔地で実施するのか、意味不明です。
ちょっと前に知人から会って入試の知恵を貸してやってくれ、とある私大関係者を紹介されました。そこであれこれ話をすると、「言われたことは全部やった」「それでも受験生が集まらず苦しい」。
そう言われては、何もアドバイスしようがないので、はあ大変ですね、でお茶を濁してその後それっきり。
このコラムを書くにあたって、そう言えば受験会場、どこだっけ、とこの大学のサイトを見ると
「本学、東京」
 この大学の偏差値は43。下から数えた方が早い大学に東京の受験生が集まるべき、との思い込みはなかなかのもの。
 それとも、歌舞伎町あたりで一杯飲むために、わざわざやっているとか、どうせ潰れるのだから、その前に経費で豪遊する口実として、とか。そんな理由でないことを切に願います。
 地方会場入試で志願者を増やしたいのであれば、潜在的なニーズがどこにあるのかを冷静に調べて、そこで開催した方がいいでしょう。私立大でも国立大でも。
 地方会場入試ではもうちょいアイデアがありますが、それはまあ、会った人限定ということで。ヒントは「大学は受験以外では似たようなことをすでにやっている」。「受験以外」でばれているような気もしますけどね。
by reiji0 | 2012-04-22 12:27 | 日記