ライター(大学ジャーナリスト)石渡嶺司のブログ


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カテゴリ:『沸騰!図書館』( 4 )

沸騰!図書館 100万人が訪れた驚きのハコモノ (角川oneテーマ21)

樋渡 啓祐 / KADOKAWA / 角川書店



●『沸騰!図書館』増刷決定

 こんにちは、石渡です。

 『沸騰!図書館』、めでたく増刷が決まりました~(拍手)。

 まだ増刷部数は調整中です(初版は1万部)。

 出版が冷え込んでいる中、増刷が入るかどうかが第一関門です。

 まして、地方の首長が著者で、テーマが図書館、というかなり狭いジャンル。

 初版1万部というのも今の出版業界ではかなりの冒険です。

 増刷がかかるかどうか、ひやひやしていました。

 それをなんとか超えたので、まずは一安心。

 Amazon含め、ネットでは在庫切れ、ないし、お届けまでに時間がかかる状態になっています。

 お急ぎの方にはご迷惑をおかけしております。規模の大きな書店では入荷済みなので、もしお急ぎでしたらそちらでお求めください。


 さて、できるかなシリーズ4回目、今回は本の基本方針について。ま、大きな柱と言いますか、そういうのが3つありました。


●1:読める日本語にする
 出版業界の中では「商業日本語」「読める日本語」「通じる日本語」など人によって言い方は違います。

 まあ、一般読者にも分かるような文章、という意味です。

 当たり前なんですが、これが出来ない書き手候補(場合によっては実績ある書き手も!)は結構います。
 
 特に大学教員や弁護士などの専門家やマニアとなると危ないですね。

 日本語であることはわかるのですが、狭い世界でしか通用しない話を飛ばして書かれる方が多数。

 知己の新書編集者と話をしていても、書き手候補として魅力があっても断念した、という話をよく聞きます。

 それから、情熱的に話す方、講演などがうまい方でも文章となるとちょっと、という方が結構います。

 同じ話を繰り返し書くとか、接続詞の使い方が下手(「また」「あと」の多用など)とか。

 編集者が多少手を入れることはありますが、あんまりひどいと編集者でなく、半分著者みたいなものになってしまいます。

 幸い、樋渡市長は「読める日本語」をきちんと書ける書き手でしたので、この心配は杞憂でした。

 「ここ、情景をうまく表すために季節感を盛り込んでください」

  と注文を出すと、きちんと応えてくれました。

 ん?

 なぜ、図書館の新書で季節感が必要か?

 そこは、えいやと飛ばすことにしましょう(ステマなので)。

 情報量が多いので、それをどう切るかで編集担当としてはかなり苦しむことになりましたが、それはまた別の話。

 樋渡市長の場合、専門用語をかみ砕くことにも理解してくれたのは編集担当としてものすごく助かりました。


●2:視点を1つにしない
 本は書き手(樋渡市長)のものですが、図書館は樋渡市長1人でできたものではありません。

 ただ、市長本人が取材するのもどうも、ということで、そこは編集担当である私が館長や市役所の担当職員、CCC関係者などに取材、メモ原稿としてまとめて提出しました。

 それから、視点ということでは、攻撃・守備のバランスを取った、ということも言えるでしょう。

 武雄市図書館についてはネットを含め、かなり強い否定論がありますし、一方で樋渡市長自ら反論されることもあります。

 さて、この否定論、反論をそれぞれどうするか。

 否定論が強すぎると、守勢に回ってばかり、となってしまいます。

 一方、反論に打って出た話を中心にすると、それはそれでとげとげしくなってしまいます。

 どちらも実際にあった話ですから、そこは新書として読みやすいようにバランスを取りました。

 たとえば、市議会でのやり取り。質問と答弁は通常、面白くもなんともないのですが、武雄市議会はかなり白熱したやり取りがあります。

 私個人としては議事録を読んでいても飽きませんでした。ただ、全文を掲載すると、それだけで新書の相当部分を占めることになるので、ポイントポイントを抑える程度にしました。


●3:動き・流れを出す
 一番意識したのがここです。

 樋渡市長の前作、『首長パンチ』も動き・流れが良く、すっと入っていける本でした。

 他に、イメージしていた本は『大統領オバマは、こうしてつくられた』。

大統領オバマは、こうしてつくられた

ジョン・ハイルマン / 朝日新聞出版



 2段組で400ページを超える分厚い本。アメリカ政治の専門家か、よっぽど興味あるもの好き以外、読まないだろう、という本です。

 ただ、アメリカ大統領選にちょっとでも興味ある人であれば、めちゃくちゃ面白い。

 民主党予備選、共和党予備選、本選挙の3編構成なのですが、それぞれ、ジェットコースター的な展開に引き込まれる名著です。

 もちろん、『沸騰!図書館』は新書ですから、あれもこれも、と詰め込めるわけではありません。

 とは言え、多くの困難、多くのハードルがあり、それを多くの人の協力によって乗り越えてきたことも事実です。

 この展開の面白さ、『大統領オバマ』に通じるものがあるな、と考えながら作っていきました。

 ※「できるかな」シリーズ、まだ続きます~
by reiji0 | 2014-05-12 16:58 | 『沸騰!図書館』

沸騰!図書館 100万人が訪れた驚きのハコモノ (角川oneテーマ21)

樋渡 啓祐 / KADOKAWA / 角川書店




 編集担当の石渡です。本日(10日)、いよいよ、『沸騰!図書館』刊行です。
 一部書店では9日ごろから並んでいるようですし、地方の書店では11日以降になるかもしれません。

 さて、初版分で誤字・掲載ミスがありました。

すみません、本当、すみません(謝)。

●口絵
× 毎月

○ 毎週

●6ページ4行目
オープン前からオープン後
→削除

●目次
× 失敗も山ほど~駐車場・飲み場など

○ 失敗も山ほど~駐車場・水飲み場など

●16ページ
× 5時

○ 6時

●165ページ・人名読み
× みつたけ ゆうり

○ みつたけ ゆかり

 増刷分以降は修正しております。今のところ、増刷しそうな勢いなのでそこは不幸中の幸い、とかそういうことでなく。

 本当にすみませんでしたー!
by reiji0 | 2014-05-10 09:25 | 『沸騰!図書館』
●当初のタイトルは『炎上市長』

 みなさん、こんにちは。発売まであと5日となった『沸騰!図書館』編集担当の石渡です。

沸騰!図書館 100万人が訪れた驚きのハコモノ (角川oneテーマ21)

樋渡 啓祐 / KADOKAWA / 角川書店



 編集後記、その2ということで今日はタイトルについての裏話を一つ。

 新書に限らず、タイトルは本の売れ行きを左右する生命線です。

 インパクト重視で行くか、それともインパクトは多少抑えてもあえて地味なものにするか。流行のキーワードを使うか、あまり使われていないものにするか。

 私の新書だと、当たり作は『就活のバカヤロー』『アホ大学のバカ学生』などインパクトあるものばかりです。

 もちろん、インパクト重視で行けばいいというわけでなく、私にしろ、他の書き手にしろ、外したタイトルはいくらでもあります。

 さて、樋渡市長の新刊ですが、当初は政策論・地方行政論全般という企画だったこともあり、有力候補は、


炎上市長
独断専行
武雄は今日も炎上中
武雄は今日も燃えている


 などなど。

 『炎上市長』はかなり有力でして、これで表紙見本を作ったほどです。

 原編集長が
「タイトルは4文字、長くても6文字」
 というのを強く主張していたこともあります。

 『独断専行』は樋渡市長の出した候補。偶然にも、その後、ネットでアンチ・樋渡市長の方の書き込みにも出ていました。

 これだと分かる人はわかりますが、多くの一般読者は政治家本なのか、地方自治本なのか、分からない、ということで脱落。

 最近だと、『独裁力』なんて本が売れているようです。もし、樋渡市長の本が1作目、ということであれば、『独断専行』ないし『独断専行力』なども、ありだったでしょう。

 ただ、樋渡市長はすでに2冊刊行されていて、2冊目は『独裁力』とカラーの似ているタイトルで『首長パンチ』。ちょっとかぶってしまいます。

 ただし、「できるかな・1」で書いたように、本の内容は地方行政論全般から図書館1本で絞ることになりました。当然、タイトルも1からやり直しです。


●「炎上図書館」で「図書館に罪はない」?
 図書館本ゆえに、「図書館○○」または「○○図書館」くらいが収まりがいいだろう、ということで出た有力候補がこちら。

炎上図書館

 これを原編集長に伝えると、

「図書館に罪はないのでやめましょう」

 だったら、図書館を引っ掻き回した樋渡市長は罪なのか、と横で聞いていた市長も爆笑していました。
 図書館スタッフやCCC関係者にも持ち帰ったところ、当然ながら大反対。

 そこで、「吉原炎上」にあやかって

「図書館炎上」

ならどうか、ということで一時はこれが最有力候補になりました。

 ちなみに他の候補は、こちら。

 図書館沸騰
 沸騰図書館
 図書館パンチ
 図書館創造

 などなど。「沸騰」は「話題沸騰」「議論沸騰」から。
「パンチ」は樋渡市長の2010年刊『首長パンチ』つながりで作りました。
そして、「創造」は歴史シミュレーションゲーム「信長の野望」シリーズのサブタイトルからの流用です。
 とりあえず、タイトル候補を20くらい並べる、ということで、確か「野望図書館」「図書館革新」てのも出したような気が。

 「革新」はまだしも、「図書館将星録」「図書館覇王伝」とか意味不明ですね(そんなの、候補として出すなよという話だ)。

 どれも、「図書館炎上」に比べるとちょっとインパクトが弱い、ということで、「図書館炎上」に決まりかかっていました。
 

●「炎上」は古いと待ったがかかる

 これに待ったをかけたのがZ会の寺西隆行さんです。

 もともと、樋渡市長を紹介してくれたのが寺西さんでした。

 人と人をつなげるのが得意な寺西さんは樋渡市長のブログにも登場していますし、寺西さんのブログにも『首長パンチ』の書評が出ています。

 今回の話で言えば、たとえるなら、仲人役みたいなもの。
 そこで最初の出版社から角川に移ったことやタイトル候補で『図書館炎上』が有力である旨を伝えました。

 すると、この仲人から、ものすごい勢いの返信が来ました。『炎上』はやめておいた方がいい、というのです。

 理由としては、

1:樋渡市長が自分で思っているほどには炎上していないこと
2:「炎上」というキーワード自体、2年前ならまだしも今だともう古い
3:樋渡市長がやっていることは炎上がどうこう、というのをすでに飛び越えている

 などなど。そこに『炎上』を使うと、せっかく前向きなことをやっているのに、樋渡市長を知らない一般読者からキワモノ扱いを受けてしまう、と言うのです。

 なるほど、言われてみればその通りです。

 1は、Twitterなどで毎日あれこれ書いているアンチ樋渡の方を数えてみると10人かそこら。100人単位というわけではありません。
 まあ、10人(ないし20人)でも炎上中と言えるかもしれませんし、その後、編集担当としてあれこれ書かれる「樋渡被害者友の会」入会者となった私としては10人どころか1人でも(以下略)。

 2もその通りで、『炎上』を冠した本が何十冊も出た今となっては使い古され感がありありです。

 3も樋渡市長の政策は図書館に限らず、病院でも観光でも教育でも前向きなことをやってきたし、あるいはこれからやろうとしているわけです。

「樋渡さんを知っている人なら、タイトルが『炎上』でも苦笑いしながら買うはず。だけど、知らない読者は、引いてしまうよ」

 なるほど~、確かに。

 実はタイトル候補となっていた『図書館パンチ』、上記のものと同じ理由で樋渡市長が反対していました。

 『首長パンチ』とのつながり、という点ではいいタイトルなのですが、その『首長パンチ』自体が誤解されるようになった、と言うのです。

 すなわち、

「『首長パンチ』を出した当初は、こちらがパンチを受けている側、というつもりで出した。でも、今はこちらがパンチを出している側と思われている」

 つまり、いじめられっ子のつもりがいじめっ子と思われているという次第。


●朝礼暮改ならぬ朝礼朝改で『沸騰』に

 その流れで言えば『炎上』はいいタイトルとは言えません。だったら、『沸騰図書館』あたりかな、と樋渡市長に相談すると、

「余計なこと言うよね、寺西さんも。『炎上』でいいのにさあ」

 と、ものすごく不機嫌。
 ちょっとー!
 出ました、独断専行力とか納得している場合じゃない。
 さーて、どうしたものか、と思っていたら意外な助け舟が。

 このタイトルを相談していた日、樋渡市長と懇意にしている松原聡・東洋大教授が武雄に来ていたのです。

 お昼ご飯を一緒に食べることになり、その帰り、市長と教授と同じ車で図書館に向かいました。

 そこでタイトルの話をすると、松原教授曰く、


「沸騰がいいんじゃない、前向きだし。炎上はちょっとねえ」

 これを聞いた樋渡市長も、

「だったら、沸騰にしようか」

 市長っー!さっき、「余計」って不機嫌だったじゃないのさ、とか言っちゃあいけません。

 そんなこと言い出したら、身が持たない(ははは)。

 ご本人が言うところの、「完成力より修正力」「朝礼暮改ならぬ朝令朝改」たるゆえんです。

 かくて、タイトルは「沸騰」で行くことに。

 その後、角川側から

 「沸騰と図書館がつながっていると、中国かどこかの地名みたいで紛らわしい」

 との理由で「!」が入り、『沸騰!図書館』となったのです。


●サブタイトルはあっさり決まる
 
 難航したタイトルに比べて、サブタイトルは、図書館ネタで行く、と決まった時点ですんなり決まりました。

 製作時点(2014年2月)で1年ないし1年1か月程度で来館者数が100万人を突破しそうという事で「100万人」を使うことがまず決定。
 ※実際に、2014年5月5日で100万人を突破

 5万人規模の市に100万人の来館、という数字の対比も読者の目を引きやすいものがあります。

 そこで、原編集長が会議で出したのが、

100万人が訪れた驚きの手法

 です。

 この「手法」を「ハコモノ」にしてはどうか、と提案したのが樋渡市長。

 ハコモノ・箱物は確かに公共施設である図書館も含みます。そして、箱物というキーワードは「箱物行政」なんて言い方があるようにネガティブなイメージがあります。

 それをカタカナにして出すのは意外感があって、面白いじゃないですか、と衆議一決。

 それに、樋渡市長の箱物行政論もちょっと本に出ています。あー、アンチ樋渡の方が必ず問題にする、公募の是非も含めてです。この辺の話があるよ、とサブタイトルで出すのもいいかな、と。

 かくて、タイトル・サブタイトルが決まったわけです。


 つづく
by reiji0 | 2014-05-06 13:13 | 『沸騰!図書館』
●ライターなのに、編集担当になった件
 みなさん、こんにちは。沸騰!図書館』(樋渡啓祐、角川oneテーマ21)の編集担当、石渡です。
 

沸騰!図書館 100万人が訪れた驚きのハコモノ (角川oneテーマ21)

樋渡 啓祐 / KADOKAWA / 角川書店



 ライターなんですが、初めて編集担当ということで人の本づくりに関わることになりました。
 しばらく、編集後記ということで、本(と図書館)に関することを何回か掲載しますのでお付き合いのほどを。

 1回目は刊行決定までのドタバタです。

●長崎に行くついでに武雄に寄る
 もともと、『首長パンチ』(講談社)を読んでいまして、佐賀県武雄市の樋渡啓祐市長のことはある程度知っていました。

首長パンチ--最年少市長GABBA奮戦記

樋渡 啓祐 / 講談社



 市長なのに、なんかときどき炎上するなあ、とか、医師会と対立してまで民間移譲を進めるのは大したもの、と思っていました。

 それで、CCCを指定管理者としてリニューアルした武雄市図書館のこともニュースで知っていまして、いずれ行きたいなあと思っていました。

 思っていたところに、長崎県立大でキャリア講演をする機会をいただいたのが去年(2013年)の7月のことです。

 これはちょうどいい、と武雄市図書館に寄ろうとしたところ、知人が樋渡市長を紹介してくれまして、会えることに。

 武雄市図書館で待ち合わせをしまして、ちょっとお話しした後に昼どきだったので食事に。

 確か、喰道楽というラーメン屋だったのですが、そのときに市長から

「新書って出してみたいんだよね」

 と言われまして。

 いやあ、いいじゃないですか。ぜひ、出してください。

「一緒にやらない?」

 え?
 一緒って、共著ってことですか?
 いやいやいや、それはさすがにちょっと。

 私が地方自治などのことを書いていれば共著の意味もありますが、私は門外漢。それだと、共著の意味がありません。
 それに樋渡市長ほど注目を集めていれば出版社から依頼してくるはず。なんならご紹介しますので…

「まあ何でもいいからさあ、本出すの手伝ってよ」

 はあ、それはまあ。
 という実に安易な流れで出版の話が決まりました。
 で、後述しますが、別にライターとして関わる必要はなく、それでまあ、編集担当、それも名物市長の編集担当となってしまったのです。


●版元が決まってしばらく放置

 東京に戻って、出版社A社に話を持ち込むと即決。
 2014年5月刊でほぼ内定しました。

 さすが、日本中から注目されている市長の初めての新書。それはそうだろう、ということで、すぐ着手…しなかったのです。

 樋渡市長の「スピードは最大の付加価値」とは真逆。

 何しろ、話が決まったのが2013年8月。で、当時、11月刊行の新書と12月刊行の新書(『教員採用のカラクリ』『就活のコノヤロー』の2冊)、2014年3月刊の進路ガイド(時間と学費をムダにしない大学選び2015』)、某予備校の進路パンフレットコラム…と、目の前の仕事が山積みでした。

時間と学費をムダにしない大学選び2015 - 最辛大学ガイド

石渡 嶺司 / 中央公論新社



就活のコノヤロー ネット就活の限界。その先は? (光文社新書)

石渡 嶺司 / 光文社



教員採用のカラクリ 「高人気」職のドタバタ受験事情 (中公新書ラクレ)

石渡 嶺司 / 中央公論新社



 とてもとても、樋渡新書に着手するどころではありません。

 まあ、来年5月刊だし、年明けに取り掛かれば十分間に合うはず。市長もブログをあれだけ書いているし、と思い込み、樋渡新書はほったらかしにしていました。

 ところが、何でも甘く見るものではありません。ほったらかしにしている間に、出版業界にとって衝撃的なニュースがありました。それが徳洲会事件です。


●徳洲会事件が出版業界で大ショック
 衝撃的なニュースとは徳洲会事件です。

 もともとは医療法人・徳洲会グループの公職選挙法違反事件でしたが、この流れで猪瀬直樹・都知事(当時)が都知事選直前に5000万円を借りたことが発覚。

 猪瀬知事は個人的な借用、と釈明しますが、借りた時期を考えればどう考えても選挙資金です。

 マスコミだけでなく都議会からも激しい追及を受け、2013年12月19日、とうとう辞任表明に追い込まれます。
 
この事件、出版社は直接関与しているわけではありません。にもかかわらず衝撃的なニュースだった、とするのは理由があります。

 猪瀬氏は辞任表明の前々日、17日に辞職することを決め、マスコミにもそうした記事が出回ります。そして、その翌日の18日に猪瀬氏の新刊『勝ち抜く力』(PHPビジネス新書)が刊行されました。

 あいたたた、痛い、痛すぎるタイミング!


勝ち抜く力 なぜ「チームニッポン」は五輪を招致できたのか (PHPビジネス新書)

猪瀬直樹 / PHP研究所




 本の内容は、東京オリンピック誘致の内幕をまとめたものです。で、実際に誘致に成功しているわけですから何事もなければいいタイトルです。

 猪瀬氏の当時のブランド力とオリンピックへの期待感などを考えれば少なく見ても5万部は売れたでしょう。

 ちなみに今の出版状況ですと、新書では5万部どころか3万部、いや2万部でも売れた、と言われるご時世です。

 確実に売れると踏んだからこそ出版社も刊行に踏み切ったわけです。それなのに、刊行翌日に辞任。「勝ち抜く力」どころではありません。案の定、Twitterなどではさんざん小ばかにされていました。そりゃそうでしょう。

 この徳洲会事件~『勝ち抜く力』事件は出版業界にも大きな影響を与えました。
 要するに、政治家本を出すことに対して、それまでイケイケドンドンだった出版社が及び腰になってしまったのです。


●書き手不足で政治家歓迎だった、はずが一変

 それまで、出版業界、特に新書では慢性的な書き手不足でした。これは現在もそうです。
 出版社は

1:これまでにヒット作を出して今も売れている著者(例:佐藤優さんなど)
2:新書は出したことがなくても、売れている小説家・エッセイスト(例:林真理子さん、酒井順子さんなど)
3:新書は出したことがなくても、面白そうなテーマを持っている学者
4:かつて新書を出して、それも5万部超えのものを出した経験があり、今はそれほどでもない書き手(例:自分・涙)

 の順で声をかけていきます。2~4は順不同ないし逆転する出版社もありますが、それはさておき。
 これで、書き手不足が埋まればいいのですが、そうはいきません。そこで、

6:新書は出したことがなくても、知名度が高くて面白そうなテーマを持っているプロフェッショナル
7:新書は出したことがなく、知名度が低くても面白そうなテーマを持っているプロフェッショナル

 と、声をかけていくわけです。政治家はこのカテゴリーのうち6に入っていました。
 ところが、これも段々、飽和状態になってきました。そこに徳洲会事件・猪瀬ショックの登場です。
 株にたとえるなら、「政治家」株は大暴落。そして、こまったことにその影響を受けたのが当初、刊行が内定していた出版社でした。


●「政治家」株暴落で最初の出版社が降りる
 2013年12月末、山積の仕事が片付き、ようやく、出版社と樋渡新書の打ち合わせに入りました。

 内容は樋渡市長の政策、地方行政論などを中心に、ということで話が決まったのですが、8月に連絡したときと打って変わって反応が悪いのが刊行時期。

「そういや、4月って市長は選挙がありますよね?」

 そう、2014年4月に樋渡市長は改選。2013年12月時点では出馬表明をしているのは現職の樋渡市長のみ。対抗馬は表明せず、無投票再選か、市長選になっても圧勝との観測が出ていました。

 という話をしても、どうも鈍い。

「5月刊だと選挙の翌日が校了です。スケジュールとしてタイトですし、6月刊行でどうですか?」

 この話を市長に振ると、いや、5月刊行にこだわりたいとのこと。1周年を振り返る意味では5月刊行がちょうどいい、などの理由があり、それもそうだ、と年明けに出版社に話を戻すと、

「9月刊でどうでしょう?」

 あの、5月刊とか、6月刊という話はどこへ?

「いや、都知事のこともありますし、選挙が終わってからでないとうちでは出せないという話になりまして」

 がくっ。
 選挙があるなんて、もともとわかっていたことだろうよ、と言ってもあとのまつり。

 まあ、出版社の編集者は会社員ですし、会社の上層部がそういう判断をしたのであれば、いまさら変えようがありません。


●本は出すタイミングが大事

 問題は、その出版社の意向通り9月刊で行くか、市長の意向通り5月刊で行くか。
 私の中で答えはすぐ出ました。市長の意向通り、5月刊です。

 書き手である市長の意向が第一ですし、1周年の翌月に出すのはタイミングとしても十分ありです。

 一方、9月刊ないし、9月以降だとちょっと中途半端。売り時を逃しているとしか思えません。

 この売り時、タイミングという話、私も自分の本、『就活のコノヤロー』で痛い目に遭いました。

 『就活のコノヤロー』は2013年12月14日刊行です。

 内容はタイトル通りで、就活関連のルポ。

 その就活は2013年だと12月1日に広報解禁(説明会開始、ナビサイトのオープンなど)です。
 
大学生協関係者に刊行後、ヒアリングすると、

「11月下旬から12月1週まで就活関連の本はものすごく売れたし、もし、『就活のコノヤロー』もそのタイミングで出ていればかなり売れていた。しかし、12月14日の刊行日以降は学生の利用者は減ってしまった」

 とのこと。つまり、完全に売り時を逃した、ということです。

 そうは言っても、11月刊は他の新書が1冊あった以上、無理だったのですが、売り時・タイミングの重要性を再認識するきっかけとなりました。


●「同じケイスケでも本田でないとうちでは無理」

 さて、5月刊にこだわるとなれば、版元変更です。変更すると言っても、どうせ出すなら大きい版元からというのがこちらの希望。
 
 ところが、猪瀬ショックでどの版元も反応は良くありません。

 それに、話を持ち掛けたのが2014年の正月休み明け。

 新書のスケジュールは、通常、半年前には刊行が決まっています。刊行4か月前で話を持ち掛けるのはかなり異例。

 案の定というか、どこに連絡しても反応は良くありません。


「政治家本?前にだしたけど大惨敗だったので、うちでは無理」

「4か月前に出したいと言われても、ちょっとねえ」


 とある新書編集部からは、市長の名前(樋渡啓祐/ひわたし・けいすけ)から、


「同じケイスケでも、本田圭佑なら、そりゃすぐ企画としてもらうけどさあ。佐賀県のなんだっけ、県知事?ああ、市長?5万人規模の?それはちょっとねえ」

 市長もサッカーやろうと思えばやれると思いますけど、とかそういう問題じゃない。

 かくて、出版社選びは難航しました。
 難航するのは出版社選びの際に、こちらが条件を考えたこともあります。


1:販売力・ブランド力のあるところ

2:石渡と関係の悪くないか、そもそもやり取りがなく交渉しやすい

3:1月上旬時点でも4か月後刊行を決断できる


 この3つが条件。

 かつて私が本を出したところでは、お断りされるか、3で脱落(5月刊だと2月上旬に草稿アップ…)するかでことごとく消えていきました。

 1社だけ名前を挙げると、PHP新書。私がかつて新書を出したところなので候補となるところでしたが、猪瀬ショックで一番被害を受けたところ。
 当分は政治家本など出したくもないだろう、ということでここも脱落。

 本を出したところや有力レーベルが次々と脱落していく中で、急に浮上してきたのが角川書店・角川oneテーマ21でした。


●角川が手を挙げてくれる

 角川oneテーマ21は私がかつて『転職は1億円損をする』を刊行したレーベルです。
 ただ、その後、しばらく疎遠になっていました。

 今はかなり改善されたそうですが、当時は編集と営業がかみ合わず、「本を売る気があるのか?」と思うことが一再ならずありました。

 それもあって、当時の担当編集者とは疎遠となってしまったのです。

 その後、確か2012年ごろだったと思いますが、下北沢で就活・キャリア関連のイベントがあり、その飲み会で一緒になったのが、原編集長でした。

 何回かメールをやり取りして、角川oneテーマ21の新刊を何冊か送っていただいたのですが、具体的な話は特になし。

 この程度のお付き合いで、電話をかけて企画を売り込むのですから、フリーランスなんてずうずうしい商売です(お前だけだ、というツッコミは、なしの方向で)。

 ここで幸運だったのは、原編集長が佐賀出身で樋渡市長のことを知っていたこと、そして、角川oneテーマ21から刊行の『里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く』(藻谷浩介、NHK広島取材班)が売れまくっていたことでした。
 樋渡市長・武雄市関連の地方振興ネタは『里山資本主義』に通じる部分もありますし、収まりがいいとも言えます。

 そして、さらに幸運だったのは、樋渡市長の政策全般を出す、という当初企画案に対して、原編集長からの鋭い指摘を受けたことでした。

 鋭い指摘、というのは

「政治家本はそう簡単に売れない」

 です。

 以下、原編集長のコメント。

政治家は政策を語るのが当たり前だし、政治家本人のホームページから新聞・雑誌・テレビまでいくらでも一般読者は目の当たりにする機会がある。
 それを有料で商業出版に、と言っても、お金を出してくれる読者はそう簡単にはいない。
 まして、地方自治体の首長であれば地域も限定されてしまう。
 それよりも、武雄市図書館がこれだけ注目されているのだからその話を中心にした方がいい。
 図書館ネタを3~5割くらいにするか、いっそのこと、それで1冊全部通すのはどうか。

 これを樋渡市長に伝えると、

「だったら、図書館で1冊通そう」

 かくて、樋渡市長本企画は図書館本として刊行することになったのです。

つづく
by reiji0 | 2014-05-04 22:25 | 『沸騰!図書館』